コラム
「よい音」
あなたにとって「よい音」ってどんな音ですか?
この質問を自分に問いかけたとき、僕はちょっと答えに困ってしまいます。「よい音」には、ホントにいろいろな意味があるからです。
まずイメージがしやすい「よい音」のレコードを考えてみると、こういった物が頭に浮かびました。
Public Image Limited "Metal Box"(缶入り12inch×3)
Martin DennyのMono LP
My Bloody Valentine "toremolo ep"
いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー “アワー・コネクション”
Les PaulのSP盤
(2015年6月28日現在)
レコードの場合、音楽そのものの魅力だけでなく、録音状態やレコード盤のカッティング&プレスの違いによって、「よい音」か否かが分かれてしまいます。同じ音楽でもそれをCDで聴くのか、LP再発盤で聴くのか、オリジナル初回プレスLPで聴くのかによって印象はガラリと変わってきます。「よい音」が「モノ」と直結しているのがレコードの魅力なんでしょうね。
最初ピンとこなかった音楽が、後に違ったオーディオ環境で聴くと急に良く感じられることも多々あります。
リスナーが意図的に今までと違った角度から音楽にフォーカスを当てると、それに応じて新たな表情を見せてくれるのが音楽の奥深さです。
ビートルズの音楽は、キッチンでAMラジオで不意に聞いても、iPodで電車の中で聴いても、好きなオーディオ装置でリスニングチェアでリラックスして聴いても、全てがそれぞれに「よい音」を僕にあたえてくれます。
深い音楽であるほど、いろいろな角度からのリスニングに耐えられると思っています。
僕にとって「よい音楽」とは、結局こういった深さを持っている音楽なのかもしれません。
いろいろ考えてみると、「よい音」には絶対的なものはないのかなという気がしてきます。
音楽があり、それを聴く環境が様々にある。
その中で自分のこころの琴線にふれるタイミングを「よい音」と呼ぶのかもしれません。
「よい音」を追求するオーディオの世界は、個人的な価値観とセンスを要求する終着点のない道のようです。
音の世界は様々な要素から構成されています。
ちょっとした差異が最終的に耳に届く音に影響を及ぼすということが面白くもあり、難しいところです。
愛情を持って、些細なことに気を配り組み立てられたオーディオセットが「よい音」がするのは、機材や環境がどうであれ、当然の結果のような気がします。
明確な基準を設定するのが難しい「よい音」ですが、普遍的な「よい音」は何なんだろうか?ということが気になり始めました。
それに当てはまるのは、自然界に存在する音なのかなと思いました。
鳥がさえずる音、小川のせせらぎの音、木の葉が風でこすれ合う音、海岸に打ち寄せられる波の音を聞いて不快に感じる人はまずいないのではないでしょうか?
年齢・性別・国や時代を超えて、その音たちは時間とともに無数に存在し、僕たちの耳に心地よい振動を届けてくれます。
その振動は、きれいに整えられたものではなく、生命感にあふれた自由な動きです。
自然の音は「いま生きている」という感情を直接的に喚起してくれるのかもしれません。
ホラオーディオの理想とする「よい音」とはまさにこの自然の音です。
オーディオの世界でこの音を追求するのは簡単なことではないと思いますが、開発時に一番影響を受けている音であることは間違いありません。
これから新しいオーディオを作るにあたって、どんな道があり、どんな音があるのか想像するだけで気持ちが高まります。
その活動は、森の中に自分の足を使って道をつくりだすようなことなのかもしれません。
text by 青柳亮